台風7号が去り、高波が収まりつつあった17日、熊野市の木本海岸で初盆家庭2軒が「精霊流し」を行い、精霊棚を見送る遺族らが静かに手を合わせた。
この精霊流しは初盆家庭が木や竹などで組んだ精霊棚に提灯を点けて海に流し、冥福を祈る昔からの風習。今年も例年と同じく15日に予定されていたが、台風7号の接近で中止となっていた。
しかし、妻・みどりさんの初盆を迎えた嶋勇釣具店を経営する嶋俊二さん、漁師だった濵本吉一さんの遺族・睦美さんが「日にちを遅らせてでも木本の海で精霊流しを」と実施に至ったもの。午後7時半に2軒の精霊棚が次々と運び込まれ、海岸ではローソクに火を灯し線香を手向けて別れを惜しんだ後、遺族が精霊棚を担いで暗闇の海に入っていった。
舟型に仕上げられた嶋家の精霊棚と、赤い提灯で飾られた濵本家の精霊棚は幻想的な光を波間に漂わせながら遺族との別れを惜しむように沖へ沖へと進み、遺族らはその光を見つめて合掌。遠く小さくなっていく赤い灯火に故人を偲びながら、「ええとこ行かんしよ」と〝極楽浄土〟への旅をいつまでも見守っていた。
嶋さんは「熊野の初盆と言えば精霊流しで、伝統を守りたいという思いもありました。海にお世話になっている仕事でもあり、海へ送ってあげられて良かった」とし、濵本さんは「漁師だった父のことを思うと、どうしても海へ送りたかったので、本当に良かった」と話していた。