熊野市久生屋町の作家、中田重顕さんの小説『悪名の女』が第36回中部ペンクラブ文学賞に輝いた。大戦末期の満州でソ連兵に人生を狂わされた女性の生涯を描いた作品。中田さんは「あの頃の北満州と同じことがウクライナで起こっているのではと想像すると、激しい思いにかられた。戦争がいかに女や子どもを傷付けるか、一人の悪名に包まれた女の生涯でくみ取っていただければ有り難い」と話した。
中部ペンクラブは文学の諸活動を交流を通して文学の活性化を図る目的で活動している。第36回中部ペンクラブ文学賞には18作品の応募があり、4月の本選考会で中田さんの小説が選ばれた。
中田さんは旧満州で生まれた。これまでにも三重県文化奨励賞・文学部門や第10回鳥羽マリーン文学賞大賞、三銀ふるさと三重文化賞などを受賞している。戦争を体験した人や遺族らからの貴重な歴史の証拠や証言を後世に残そうと活動を続けている。
『悪名の女』は津市の同人誌『文宴』137号に掲載された。400字詰め用紙80枚を超える分量に主人公・口育代の人生を込めた。大阪文学学校の細見和之さんや文芸評論家の清水良典さんらも文芸書書評で高く評価。清水さんは朝日新聞で「現在のウクライナを彷彿させる悲劇の痛ましさと、苦行のような人生の荒波を超えた彼女の美しさが浮かび上がる」と評している。
中田さんは「中部ペン文学賞に過去2回落選している。自信作だったのだが、これで諦めて以降、応募していなかった。80歳を超え『悪名の女』で応募する気になったのは、あの年、北満州で女たちがソ連兵により陵辱され続けた同じ事がウクライナでおこっているのでは、と想像すると激しい思いにかられたからだ」と話す。各種書評が好評で、細見さんが「これは私がこれまで読んできた作者の作品でいちばん充実した一篇であり、今回読んだ同人誌のなかで文句なしに傑出した作品だった」と評価してくれたことが背中を押してくれたという。
『悪名の女』は8月発行の『中部ぺん』第30号に選評とともに掲載される予定。『悪名の女』を読んでみたいという人は中田さん(090・5037・0336)へ問い合わせを。